いつものように

ほんわかとしたあたたかい陽射しを浴びながら
洗濯物を干しているとき、
いつものように 家の影から
ケンが尻尾をふりながら 出てくるような気がしたよ。
いつものように 少し上目遣いで。

私に気をつかっていたのかもしれないね。
他の飼い主みたいに
飛びついて甘えることも許さなかったし、
厳しく躾けていたと思う。

それは 他の人に迷惑をかけないようにとの配慮もあったけれど
何より 私が それを望んでいなかったというのもあったかな。
犬はそれほど 好きじゃなかったし。

考えてみれば 10年近く、お前と一緒に暮らしたんだね。

長いように思えるけれど
とても短いようにも思う 10年。

あのことがなければお前とも 違う関係を築けたかもしれない。
でも事故は起きてしまった。
ドライバーの不注意が 全てを無茶苦茶にした。

ああでも
そんなことが起こることを
考えもしなかった 私が一番馬鹿だ。
だからお前を 憎むことはしなかったし
世話も義務だと思って やってきた。

でもね 時々
どこかへ行って欲しいと思ったのも事実。
雷が怖くて逃げたときには
あちこち探して
保健所にも問い合わせたけれど 心の底では
このまま いなくなってくれたらいいと
思っていたんだ 私は。

動物を飼えば その命が終わるまで
面倒を見るのは 飼い主として当然の責任。
それにお前たちは 親友ともいえる友人が飼っていた犬。
友人が、亡くなるまで心配していた犬たちなんだからね。

なにより 事故の最大の原因は
ドライバーにあるのだから。

わかっていても 辛かった。
一緒に暮らすのが辛かった。
ずっとこんな気持ちでいた飼い主なのに、慕ってくれた。
犬は幼児と同じで純粋だ。
でもその純粋さが 辛かったんだよ。

歩けなくなってからは 世話も大変だったし
正直言って 疎ましいと思ったときもあった。
反面、とても気になった。
この苦しみを 少しでも
軽くしてやりたいとも思った。
死は近づいてくる。
それは仕方のないことでも。

でも 愛することができなかった。
悪いけれど私は愛情をかけてやれない。
早く元の飼い主のところにいきなさい。
本当に悪いけれど・・・
そう声をかけるようになって
一週間ほどしてからだ、死んだのは。

二匹ともいなくなった今
私は 寂しいとも思わないし、悲しいとも思わない。
また よかったとも思わない。
ただ ほっとした。
楽になった。
終わったんだと ただ 思う。

でも今
私は初めて 犬たちに感謝している。

あの2匹の犬は 教えてくれたよ。
命の不思議さと
思いやりが大切だと いうことを。
そして思いやりには 忍耐が必要だということを。

2007.6.1
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